ローマで主要7ヵ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が開かれていたが、日経平均は下落、期待していた効果はあまり見られなかった。
 G7では、各国が協調して政策手段を用いること、米国の保護主義の動きに対して牽制することを確認しあったが、結局、大きく株価に影響するだけの好材料は見られず、4月にロンドンで予定されている第2回の金融サミット(G20)に向けて、宿題は持ち越された形になった。
 ロンドン株式市場も、12.65ポイント安の4189へ下落、バブル時6000台を前後していたころが嘘のようだ。しかし1990年以前は2000台だったことから、さらなる下落も目の前に来ているという声も聞かれる。
 英国経済低迷の最大の理由、それはブラウン首相自身にあるのではないか。
中国の不買運動を恐れ首相自ら謝罪の手紙
 2月5日、中国外交部の姜瑜報道官がケンブリッジ大学で講演を妨害されたことは世界的にも大きくニュースになり、記憶に新しい。ところが、その後のことは大きく話題になっていない。実は、妨害を受けた中国政府、温家宝総理に対して、英国ブラウン首相とケンブリッジ大学の総長が自筆の手紙を送り、謝罪していた。英国側は今後の中英関係を維持することを改めて強調したのだ。
 経済が低迷している英国にとって、かつてフランスが攻撃されたような中国でのボイコット運動などが活発になれば、痛手は大きい。それだけ中国の存在が怖いのである。中国人の知人は「中国政府への妨害は、国外でなら簡単にできる。人権問題など中国政府に対する反対運動が中国国内で実施できたらすごいが」と冷静にみていたが、英国政府にはそんな余裕はないようだ。
 それだけ英国の経済低迷は深刻なのだ。確かに、金融危機が始まるまで、15年以上の成長を続けてきたとは思えないほど英国経済は、低迷している。金融商品の信用不安の再燃、住宅価格の低迷による個人消費の減速などにより、今後さらに減速が本格化することが懸念されている。
 イングランド銀行は政策金利を0.5%引き下げ1.0%としたが、インフレ率は目標の2%を大幅に下回り、当面0.5%にとどまるとの観測もある。失業率も昨年8-10月で6%に達した。消費者信頼感指数も過去最低水準にまで悪化している。
 さらに不動産市場も、融資基準が厳格化されたこと、中古住宅市場の低迷で住宅建設市場が下落したこと、金融業の打撃により銀行の貸し渋りが拡大したことなどで、住宅販売件数は08年年初からの半年ですでに42%下落、現在はさらなる下落が続いている。
 英国の人口は日本の7割だが、英国の名目GDPは約167兆円で、日本の約500兆円の半分以下である。それだけに金融業界の損害額が大きいことがわかる。ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)銀行は2008年通期決算が約3.4兆円の損失で過去最大の赤字に陥る見通しを発表し、ロイズ・バンキング・グループは救済買収したHBOSの2008年の損失が税引き前で100億ポンド(約1兆3000億円)になることを発表している。政府の資本注入を受けても、まるで崖から転落しそうな勢いで経済が悪化している。
 そのため、英国は、国内や欧州市場よりもインドや中国の市場に注目し始めた。英国の国別輸出統計をみると、2005年には中国向けが28億2400万ポンドだったのが2006年には32億7900万ポンド、2007年には37億8100万ポンドと増えている。香港向けを含むと2007年は64億0000万ポンドを超え、EU15ヵ国の半分を占めるほどである。対輸出国としての占める割合は米国向けが14%だが、その割合は減少傾向にあり、対BRICs向けの伸び率は19%もある。
 英国のEU25域外貿易相手国では米国に次いで第2位が中国であり、その金額は日本を抜いている。欧州経済の中心的存在でいたい英国にとって、今は中国だけが望みの綱になっているのかもしれない。
ジム・ロジャーズ氏も「英国は終わった」と発言
 世界的に金融危機の打撃を受ける中、中国の金融は比較的打撃は少ない。経済成長率は低迷しても8%維持を掲げ、マイナス成長が予測されている先進国より基盤が強い。中国が欧州に期待されるのも当然だろう。
 一方、GDPマイナス2.6%成長が予想されているイギリスでは、英国政府が40兆円の追加金融支援策、中小企業対策を発表した。それでも効果がないため、G7ではEU(欧州連合)全体で23.7兆円の財政出動などの金融政策を盛り込んでいる。
 先月、米国の投資家ジム・ロジャーズ氏が「英国は終わった」と発言したのに対して、ブラウン首相は必死で反論した。しかし市場は1ポンド=118円90銭まで急落、過去最安値を更新し、2007年7月の250円台から半分以下まで下落した。
 ただ、これはジム・ロジャーズ氏の発言だけが原因ではないだろう。中国政府、温家宝総理に謝罪の手紙を送り、経済低迷によって右往左往しているブラウン首相の、凛とした姿がみられない態度が国民を不安にさせ、将来への信頼を失っているのかもしれない。
 オバマ大統領は、中国との巧みな外交で、両国間に山積する課題を良き解決へと導くことができるのか。オバマ新政権と中国との今後の関係が、世界経済の命運を握っているとも言えそうだ。