景気減速、世界的な金融危機の余波で、中国の環境対策に後退懸念が出てきた。一方、日本政府は12月にポーランドで開かれる「気候変動枠組み条約第14回締約国会議」(COP14)で、中国、インドなど温室効果ガスの大量排出国を念頭に置いたエネルギー効率目標の創設を提案する。失速感が出ている経済の立て直しと温暖化対策の狭間で揺れる中国の悩みは深い。
 12月にポーランドで「国連気候変動枠組み条約第14回締約国会議」(COP14)が開かれる。そのための閣僚級準備会合が10月13日からポーランドのワルシャワで開かれた。国際環境保護団体グリーンピースのサ・コソネンさんらは会議前の記者会見で、「このまま行くと、(今世紀末までに)世界の気温は最大7℃上昇する可能性がある。手をこまねいている暇はない」と地球温暖化について厳しい現状認識を示した。
 だが一方で、国際社会は、サブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)を引き金とした世界同時株安という金融危機の暴風雨の中で立ち往生している。「各国政府、企業は景気対策を優先し温暖化対策は後退する方向に行くのではないか」と見る関係者は多い。
 そんな逆風下で開かれた「閣僚級準備会合」で、日本は、二酸化炭素(CO2)排出量が世界第2位の中国や同5位のインドという大量排出国を途上国グループから切り離し、温室効果削減について応分の負担を求めるという画期的な新提案を出した。2013年以降のポスト京都議定書ではこれらの国に、新たな削減目標を受け入れてもらうというのだ。
 これまで、中国、インドは、温室効果ガスの削減義務を一切負わない途上国グループの一員と位置づけられていた。しかし、いつまでも、このような優遇を続けるわけにはいかない。増して、両国の排出量は、黙認できる水準はとうに超えている。ただ、先進国に義務付けられた「総排出量」という目標をいきなり両国に課すわけにはいかない。そこで、国内総生産(GDP)当たりの温室効果ガスの排出量やエネルギー消費量という、排出総量に比べ緩やかな「効率目標」の創設を求めることになった。
第3四半期のGDP成長率が9%増に減少
 一方、中国の経済状況は、今年第3四半期(7~9月)の国内総生産(GDP)の実質成長率(前年同期比)が、それまでの2桁成長から9%台に低下、減速を始めた。それだけに、経済成長の制約要因になりうる「エネルギー効率の目標設定」に対し中国が一貫して反対を続けるのは間違いないだろう。
 この数字が公表される3カ月ほど前の7月9日の北海道洞爺湖サミットの際に開かれた気候変動に関する主要経済国会合(MEM)。このときから、こきんとう胡錦涛国家主席は「中国は大国で、温度格差が激しく場所によって夏は40℃以上の暑さになり、冬はマイナス10℃以下になるなど、気候に恵まれていない。気候変動による不利な影響を受けやすい。中国は都市と農村地域の経済発展は不均衡で、13億人の人口のため中国人のひとり当たりの平均排出量は比較的小さい」と世界の首脳に向かって牽制球を投げ、削減目標の設定などにまだ取り組める段階ではないことを示した。
 それでも、中国にまったく目標数値がないわけではない。2010年には単位GDP当たりのエネルギー消費を2005年比で20%引き下げ、主要汚染物排出総量を10%削減し、森林被覆率を2005年の18.2%から20%に引き上げる自主目標は掲げている。ただ、現状では目標達成は難しい。
省エネ法改訂しても経済原則優先!?
 中国政府は「中華人民共和国省エネ法」改訂を2008年4月1日に施行した。1997年11月の公布から約10年ぶりの改訂で、省エネ管理・方法・奨励措置・法的責任について詳細な規定が、今回の改訂により強化された。具体的には鋼鉄、セメント、石炭、製紙などの業界における旧式の生産設備の更新を促すものだ。
 さらに、2008年7月には「公共機関省エネルギー条例案」が国務院で審議、修正のうえ可決、施行された。注目されるのは省エネ製品の購買を促す税制優遇措置が導入されたことである。石油消費量を下げるため、省エネ・エコ型の自動車に対して減税措置を導入する代わりに大排気量の燃費効率の悪い車に対しては税金が引き上げられる。エネルギー効率の高いエアコンでも同様の措置をとり、買い換え需要を喚起する。
 だが、政府による省エネ法は実施されたばかりで、あまり知られていない。浸透するまでには時間がかかるだろう。実際、北京の百貨店を実際に歩いてみると、政府の政策と、店頭の売り場に大きなギャップがあった。ひところに比べ日本製家電製品の数はぐっと減り、韓国・中国製が幅をきかせていた。その理由をきいてみると、「日本製品より性能等の面で品質が低くても韓国・中国製の方が安いから」(北京市内の百貨店)という。
 では、日本製品には展望がないのか。北京市朝?区にある三菱電機(中国)有限公司の高橋徹也氏環境保護部部長に取材したところ「家庭用エアコンのうち省エネ型インバータエアコンの普及は日本では一般的だが中国での普及率はまだ1%にも満たない。中国全土でのエアコンの全需は約2500万台で(2006年度)、今後も毎年5%ずつ伸びると予測される。今後、時間はかかるが、電気代が上がるなど個人消費者に影響を及ぼす政策によって個人消費者の環境製品への切り替えにも期待したい」という。
 一般消費者の省エネへの意識はまだ薄いが、政策が強化されれば、確実に省エネ対策製品は売れるだろう。中国全土における三菱電機グループ28社の2007年度の事業規模は3700億円である。高橋氏は「当社はインバーターに搭載されるキーデバイスであるパワー半導体は世界でNO.1のシェア。高度な技術を持つインバーターは中国製品ではまだ展開していないから今後チャンスがある」と力を込めた。