「中国の一人当たりの炭素排出量は先進国の平均レベルの3分の1にも達しておらず、1人当たりの過去の累計量から見ればさらに低い」
 二酸化炭素排出量で1位を占める中国は、酸化炭素排出量規制に対して、こう言い訳している。
 北京五輪を終えた中国は、もう、これまでのような途上国ではない。急激な経済成長とともに環境への負担は大きく、その代償はこれから本格的に訪れることになる。
 先月行われた中国・デンマーク気候変動ハイレベルフォーラムの席上で「中国など新興国の二酸化炭素排出量が急速に増加している」という批判の声が飛び出した。それに対し中国国家発展改革委員会の解振華(かい・しんか)副主任は「2007年、気候変動対応の国家指導グループを設立したほか、気候変動対応に関する国家プランも制定している。中国のGDPに対するエネルギー消費の割合は昨年同期に比べて2.9%下がっているほか、08年は4%以上低下する見込みだ」と語っている。
 2013年以降(ポスト京都議定書)は、中国はこれまでのような言い逃れはできない。これまでの安易なエネルギー効率ではすまされなくなる。
 その前提となる会議が12月、ポーランドで開かれる。国連の気候変動枠組み条約の第14回締約国会議(COP14)では、これまでの地球温暖化対策の国際的枠組みを延長せずに、新たな議定書の採択を提案することになり、中国にとっては不利になることが予想されている。中国に対する規制強化は免れず、その圧力に対して中国は必死に言い訳を探しているのである。
 確かに中国は貧富の格差が激しい。さらに寒暖の差も激しく、環境対策には取り組みにくい。このところのエネルギー効率の取り組みで、改善されてきた点もある。それでも諸外国とは比べ物にならないほど、エネルギー効率、環境対策は遅れており、世界に悪影響を与えている大きな存在であることも事実である。
旧式の石炭発電所がCO2排出量を上げている
 そもそも中国で二酸化炭素排出量が多い原因は、世界一の石炭消費国だからである。火力発電所を見学すると、旧式の設備は燃焼効率が悪く、排出ガスの浄化設備も未熟である。火力発電所から石炭を燃焼させることで排出される硫黄酸化物(SOx),窒素酸化物(NOx)などは、酸性雨の原因とされている。
旧式石炭発電に依存したまま、 原子力の先端技術に走る中国の矛盾
 中国電力企業連合会の統計データによると、2007年末現在、中国の発電設備容量は7.13億kWで、すでに日本、イタリア、ドイツ、フランス、イギリスの5ヵ国の合計に達するほどである。それなのに電力の需要には追いついていない。発電電力量は2008年上半期に1兆6,803億kWhで前年同期比11.67%増加しているが、中国の膨大な電力需要を満たすには至っていないのである。
 先日、中国第一重型機械公司は、原子炉圧力容器4台および蒸気発生器鍛造品12台の供給契約に調印し、世界初の第3世代原発基幹部品-AP1000蒸気発生器円錐胴の鍛造に成功したと発表した。原子炉圧力容器の4台は浙江省海塩県の万家山原子力発電所と福建省福清市三山鎮の福清原子力発電所向けで、契約総額は5億元だった。
 この会社は、発電所だけでなく石油化学など大型設備生産を主体とする中国最大の大型機械装置製造企業である。ここ数年、23億元を投入して世界最大の鋳・鍛造品生産拠点を築くとともに、原発設備生産の分野に積極的に進出している。現在世界で同設備の製造技術を持っているのは3、4ヵ国しかなく、中国は第3世代原発製品製造の分野ですでに最新の技術を得たことになる。
構造問題の解決よりも最先端技術を優先させる矛盾
 最先端の原発技術獲得の背景には、経済成長と電力不足のはざまに悩む中国のジレンマがある。
 中国は旧式の火力発電所を、完全に新式に移行させることはできていない。政策には取り入れても、引き取り手のない旧式の発電所を再編・淘汰させるのは実質的に不可能だ。
 さらに地方政府と企業の癒着問題が残っている。地方政府は環境悪化の原因になる旧式の火力発電所の問題点は理解していながらも、財政難の中、税収を支える旧式の火力発電所の多くを処分できないままでいる。しかし、急激な経済成長にともない、電力不足は深刻だ。この現状を解消しなければ経済成長を維持できない。その焦りが、根本的な構造改革をする前に、何が何でも最先端の技術を獲得しなければならないという今回の判断に至ったということである。
 原子炉圧力容器は、原子力発電所の重要な基幹に属し、最大限の安全性と品質保証が求められる部分である。しかし、いくら最先端の技術を取り入れても、地方と企業の癒着や、中央と地方の構造問題も解決できていないままでは、システムや流通などの構築の不備が生じ、どこかで問題が起きかねない懸念材料は残されたままと言えるのである。