日中韓などアジアと、欧州各国を合わせた45ヵ国・機関の首脳が出席したアジア欧州会議(ASEM)が北京で開かれた。ASEM全体の経済規模は世界の約半分を占めており、米国主導に反感を示す開催地である中国にとっては大きな存在感を残すことができたのではないか。
 さらに中国は、来月ワシントンで開かれる緊急首脳会合(金融サミット)に中国も参加するべきだという各国の意向に応え、正式に出席することにもなった。
国有銀行の民営化をにらみ金融の健全化が進んだ
 欧米の経済が低迷する中、経済大国となった中国の存在は大きい。そもそも米国発の金融危機で世界中が打撃を受けている中、中国の痛手は少ない。金融面の打撃は欧米に比較して限定的である。四大商業銀行においては、各銀行、それぞれ全体の資産の数%しか影響を受けていない。
 中国の国有銀行の民営化は、すべての企業の民営化の見本となるため重視されている。中国企業の多くは未だ国有企業である。市場経済の開放が世界から注目されている中、今後は民営化が必須である。その代表が国有銀行である。
 民営化には効率の悪い体制を根本から見直すことが大事である。株式会社化され上場している銀行においては世界の投資家からより多くの資金を集めたいところである。そのためには外国人投資家が判断する不良債権比率の減少、自己資本比率を上げることが必要だ。日本でも27日の日経平均株価が過去最低の7568円36銭となったことを受け、三菱UFJフィナンシャル・グループなどが1兆円の資本増強に乗り出したばかりである。
 中国の四大国有銀行は、これまでそれらの対策をうってきたが、今度は深セン発展銀行、華夏銀行、上海浦東発展銀行、中国民生銀行の中堅の4行においても次の民営化に備えた動きがある。08年6月中間期の業績は伸びているが、自己資本比率は低下しているため、自己資本をあげる対策を掲げている。そこで、銀行資産の悪化を避けるため自己資本比率の最低ラインを現行の8%から、来年には12%引き上げる目的を掲げている。
 このように中国は金融面では、欧米諸国よりも早い対策を講じているといえる。
米ドルより人民元の価値は高まった
 05年7月21日に中国人民銀行(中央銀行)がレート改革の実施を宣言して以降、人民元の対ドル相場が上昇している。9月23日の人民元対米ドルレートの基準値は1ドル=6.81元で、相場制度改革実施以来の最高値を更新した。
 これで、2008年にはいって人民元対米ドルレートの記録更新はすでに57回に達し、累計上昇率は21.5%を上回った。相場制度改革直後は1ドル=8.11元まで上がり、上昇の勢いに驚いたものだが、それから3年ほどで累計上昇率は2割を超えるほどまで上昇している。
 経過を追うと、06年5月15日に対ドルレート基準値が初めて8元の大台を突破し、1年11ヵ月後に7元の大台を突破。その後、2008年2月末1ドル7.1058元まで上昇し、4月10日には一時、6.990元台まで上昇。9月23日には6.81元の最高値を記録し、10月24日現在では6.8357元となっている。
 忘れてならないのは、改革制度を実施してから3年と3ヵ月を経過し、すでに米ドルより人民元の価値が高まったことになる、ということだ。
 むろん、輸出依存型の中国経済にとって、これはいいことばかりではない。貿易黒字を減少させ、輸出企業にはマイナスになる。また、これだけ上昇すれば海外からの資産運用目的や、海外資本による過剰なホットマネーの流入による人民元保有が行われる懸念もある。
 それでも、欧米諸国に比較して、中国の銀行が健全であり、金融面で大きな打撃を受けていない中での人民元高は、人民元が世界的に評価されつつある証といえる。
 日本円も上昇してはいるが、上昇率は人民元にはかなわない。今後、米ドルにかわり人民元が存在感を増す可能性は強い。中国社会科学院経済研究所宏観経済学研究室の張暁晶主任は、人民元上昇について「製品の輸入価格が安くなり、輸入インフレを抑制することになる」としている。人民元上昇ペースの加速により中国がかかえているインフレ問題を減少させることができれば、格差問題の解決にもつながる。
 多くの問題をかかえている中国ではあるが、金融対策においては、その成果が注目されている。97年のアジア通貨危機では人民元が切り下げなかったことで、さらなる金融危機の加速をまぬがれた。このときも中国政府による人民元に対する判断が影響を及ぼしたといえる。
 今回の金融危機をめぐって、欧州とアジアが反米国派として共通の認識を持ち、新たな舵取りを組んだ。投資銀行などをめぐる米国の金融政策が批判されている中で、今回の金融危機は、中国の銀行、金融対策、存在そのものを大きくアピールするチャンスともいえる。