東京・秋葉原で起きた無差別殺傷事件。原因の一つとして、犯人がリストラされたと勘違いして自暴自棄になったことが、携帯サイトの掲示板への書き込みからわかります。自分で自分を負け組と決め付けたのも仕事がきっかけのようです。
 もしそうなら、他人事ではありません。とくに派遣社員や契約社員が多い会社では、仕事内容と職場の人間関係がいかに大事かということを改めて考えさせられました。
 契約社員や派遣社員世代は20代から30代に多く、アフターファイブで職場の人と飲みに行く習慣を嫌う傾向にあります。そもそも若者たちの間には、酒を飲みながら愚痴を言いあう関係が成立していないのです。
 そうでなくても派遣社員は1年単位で職場を変わらざるを得ない人が多く、せっかく人間関係に慣れてきたところで契約を打ち切られることもしばしばです。普段は明るくてコミュニケーションが苦手でない人でも、こういうことが繰り返されると大きなストレスになります。「仕事のときだけ我慢すればいい」「今の仕事は嫌いだけど忍耐も必要」。そんな自分を好きになれるはずがありません。
 私も派遣社員で働いていたとき、忘れもしない出来事があります。クリスマスイブの夜に女性の正社員はさっさと帰り、年賀状の作成の雑用を「今日まで」と押し付けられたのです。おかげで帰宅は深夜となり、彼氏はカンカンでした。
 もしこんな状況が続く職場だったら、派遣社員の鬱憤(うっぷん)はたまり、自分よりもさらに弱い立場の人にそのはけ口が向けられかねません。雇用形態の格差が引き起こす事件が、これからもっと増えるのではないかと私は危惧しています。
 人件費を抑えるためだけの安易なアルバイトや派遣社員の雇用を見直すとともに、彼らがサポートしてくれるからこそ仕事がまわっているのだと理解し、職場の温かい感謝の対応を願いたいものです。
(生活経済ジャーナリスト・嘉悦大学短期大学部准教授)