食料自給率の低い日本では将来が不安視されているが、中国でも農業ビジネスに注目が集まっている。ここ数年、民間の農業企業が株式会社化して上場するケースが目立ってきている。いまだに多くの企業が国営の中国においては画期的な出来事である。
株式会社化が進み、11社が上場
 実際、1993年には農業関連企業で上場していたのは、「港佳控股 (KPI)」の1社しかなかったが、現在は、新興企業が台頭し、11社にまで急増している。例えば、2004年に上場した「緑色食品」は、サトイモ、サツマイモ、ジャガイモ、エンドウ、ネギといった野菜や、水煮パックなどの加工品を日本などに輸出している。
 上場する企業は、言い方は悪いが、とりあえず上場さえすれば、株を買ってくれる投資家が集まり、株価は上がり、会社の業績が良くなると思っている。実際に2007年3月の党大会では、新しい農業政策が打ち出されて、農業関連企業の株価が上昇した。新政策が打ち出した農業経営者に対する税負担の軽減や、直接的な補助金の支給、それに農村のインフラ整備への資金投入などが影響している。
 中国でも食品の偽装問題を含めて、食の安全に対する意識が高まっている。富裕層を中心に、特にブランド力のある無農薬野菜が人気を集め、スーパーでは、安全な野菜のみが販売されるようになってきた。
 無農薬野菜のビニール袋には、農業関連企業の名前が書かれている。例えば「超大現代農業」などである。無農薬をうたっている農業関連企業のいくつかは既に知名度やブランド力があり、そういった企業の野菜を選ぶことがステイタスにもなっている。
 現在でも路上では、どこの産地から来たのか分からない形の悪い、鮮度の悪い果物や野菜が販売されているが、世の中の流れは、質の高い安全な野菜を求めるようになってきている。
 中国にとって農業は最重要課題の1つだ。農業ビジネスは、ようやく整備が始まったばかりの成長分野といえる。それゆえに、農業ビジネスに夢を求める人が増えている。
課題は労働力の確保
 問題もある。厳しくなる一方の環境と労働人口の減少だ。中国の場合、日本の25倍もの広い土地があるため、一見、農業ビジネスに向いているように思えるが、実はそうではない。そもそも、氷点下10度を超える寒さや、40度を超える暑さが農作物へ影響を与える。さらに、水不足や世界的な温暖化によって土地の砂漠化が進んでいる。
 農村部に住む人口も減少している。1949年に89.4%だった農村部の人口は、2006年では56.1%にまで減少している。そのうえ、働いている人は、体力が不十分でフルタイムで働ける労働力としてカウントできない15~17歳の子供が多い。18歳から本格的に働き出しても、20歳になると都市部へ出稼ぎに行ってしまうのだ。
 労働人口全体では、農村部で働く労働者は全体の62.9%を占め、都市部の37.1%に比べると圧倒的に多い。だが、農村部で働く労働者は、20~39歳の若手が3割にも満たない。とにかく若手が少ない。
 最近は世界的な食糧価格の高騰が影響し、農民の所得が向上している。さらに都市部に出稼ぎに行っても、差別されるだけで、賃金も思ったより高くないことが分かってきたために、出稼ぎに行く農民も減少してきている。若手の流出は減る傾向にある。
 根本的な問題も残っている。少子化の影響で全体の労働人口も減少しているのだ。豊富な労働者を抱える中国もついてに「労働者不足」になりつつある。
 株式会社化された農業企業が増えれば、市場の拡大は見込めるが、これまでのような労働人口の多さに依存する考えは通用しなくなる。人口減少への対策として最先端技術の利用を本格的に考える必要がある。
 日本においての農業も未開発市場であり、期待されている。これだけの食糧不足である。新たな優遇制度が導入する可能性は高い。日本でも、農業ビジネスに目を向けるビジネスパーソンがもっと増えていいだろう。