河南省で、高速道路のガソリンスタンドで順番を待っていた車の列で割り込みをしたトラック運転手が、ほかの運転手たちから集団暴行を受けて死亡する事件があった。まるで四川大地震でミネラルウォーターをうばいとっているような姿である。
 また上海市では、平常通りの営業を維持するガソリンスタンドは半分以下に減少した。広州市ではガソリンスタンドの8割の店で石油の輸送が滞り、ガソリン供給ができない状況である。軽油の場合、トラック運転手が長時間ガソリンスタンドに並んでいても、100元分しか売らない店が多く、結局6ヵ所ものスタンドを回って満タンにするような場合が多く、運転手は1日がけで燃料収集にまわらなければならない。
 すべて原油高が原因である。
 
 中国政府はこれ以上の物価高騰を抑えるため、石油価格の値上げを見合わせてきたが、そのせいで石油会社では逆ザヤが発生し大きな負担となった。大手石油会社は07年には49億円の補助を受けている。
 全体のCPI(消費者物価指数)は8%だが、食品は20%、ものによっては2倍以上の値上がり急激なインフレが続いている。上海市の30代のバイリンガルの会社員は「コンビニエンスストアどころかスーパーで毎日の日用品が高すぎて買えない。家賃も1.5倍に値上がりした。そのため夫は会社の寮に住み、私は実家に戻り、週末しか会わない週末婚である。子供をつくるなんてお金がなくてとんでもない話だ」と悲鳴をあげる。最低限の生活ができないと悲鳴を上げている日本だが、インフレは中国のほうがひどく、悲鳴の大きさは日本より中国のほうが激しいかもしれない。
日本が世界の食糧を独占することはもはや不可能
 とはいえ食料事情でいえば、インフレ率は中国より少ないが、大局的にみて日本は中国よりもっと深刻な事態に陥る。
 いつの間にか日本の食卓は大国・中国に揺さぶりをかけられるようになった。原油高の影響で全国規模の漁業団体が夏にはいっせいに休漁を検討、今度は魚まで消えることが懸念されている。ウナギだけでなく鯉なども中国からの輸入が増えるかもしれない。
 これまでの10年は先進国が経済成長していたが、現在は中国やインドなど10億人以上の大食漢の国の経済が成長している。おのずと食糧需要が増え、世界の食糧が吸い取られることになる。
 豪州の小麦の輸出先は日本から中国に移行している。経済が低迷し金の無くなった日本は、世界の食料を手にいれることが難しくなった。人口が多い国が成長を続ける今後の5年間は、世界的に食糧が不足し、市況(価格)が高騰、自給率の低い日本はその影響をもろに受けることになる。
 今後も5年は食料品の値上がりは続くことが懸念される。小麦は14%、大豆はたった3%の自給率でしかない日本において、打撃は避けられない。日本の人口は世界の1%だが、世界の食糧の20%を吸収していた。中国は世界の人口の10%を占めているが、まだ世界の食糧の2%しか消費していない。経済大国日本は、これまでが恵まれすぎていたのかもしれない。
アジアで製造する比較優位性が失われた
 食品だけではない。工業製品においても、もはや輸送コストもかかり、人件費も上昇してきた中国で製造する比較優位性が失われつつある。中国に進出した企業が製造拠点を移行し、本格的に活動を始めるにしても数年はかかる。
 人民元切り上げに原油高、労働法により中国の人件費が値上がることで影響を受けるのは、食料品だけでなく衣料品も同じだ。ワイシャツ、スーツ、下着まであらゆる衣服に用いられる素材、ポリエステルや、アクリル、ナイロンなどは、ほとんどが石油から精製され、中国で製造されている。すでに原料と燃料費におけるコスト高は前年比で15%以上も増えている。今のところメーカーは大きな値上げに踏み切っていないが、今後は衣料品の値上げも進むことが懸念される。
 いずれにせよ、もっとも長期的に物価高の影響を受けるのは、自給率が低い食料品に他ならない。日本の農業と比較すれば、株式会社化されている中国の農業制度のほうがましである。これまで日本政府が農業政策をないがしろにしてきたことへの罰が、いま与えられているのかもしれない。